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TQE は東北地区への品質工学の普及を目指します。

品質工学とはEXPLANATION OF QE


 品質工学を具体的に説明する前に、品質工学をうまく使った例を品質工学の専門用語を極力使わないで説明することを試みてみましょう。以下の文章の一部は、平成19年5月号から平成20年3月号にかけて仙台商工会議所の機関紙「飛翔」に掲載された原文です。この連載は、KCみやぎにおける企画の一部として実施されたものであり、本ホームページ掲載にあたっては、著作権を持っている宮城県から許可を得ております。
 なお、執筆者の社名は執筆当初のものをそのまま掲載しております。

「飛翔」掲載文


その他

「飛翔」には掲載されておりませんが、他にも文章化されたものがありますので、こちらも掲載いたします。

 品質工学会のホームページにある紹介ページ「品質工学とは?」も御覧ください。

<タグチメソッド・フェスタ 2021web コンテンツ>
品質工学はじめの一歩 〜用語の説明〜(10分32秒)
植 英規(福島工業高等専門学校、東北品質工学研究会)

※動画リンクの転載等は固く禁じます



「課題解決の切り札!『品質工学』」:宮城教育大学 小野元久

 この連載では、「品質工学」と呼ばれる、新技術・新製品開発に活用される技法を実際に取り入れている企業の実例を挙げながら、品質工学を紹介していきます。初回は、「品質工学とは何か?」について、「東北品質工学研究会」を主宰する小野元久先生に解説してもらいました。

 品質工学を一言で表現するならば、「未然防止のための評価技術」と言えます。未然防止とは、市場に投入した製品が不具合を発生しないように事前に手を打っておくことです。評価技術とは,開発した技術を使った製品を市場に出しても良いかどうかを判定する技術です。「未然防止のための評価技術」を獲得することができれば、工業製品の欠陥等で発生しているさまざまな問題が解消されるはずです。

 品質工学は、田口玄一博士が提唱する技術開発・新製品開発を効率的に行う手法であり、欧米ではタグチメソッドと呼ばれています。1997年、田口博士は、品質工学の指導を通じてアメリカ自動車産業に貢献したということで、本田宗一郎氏、豊田英二氏に次いで三人目の自動車殿堂入りを果たした偉大な研究者です。

 今後隔月で、企業での実際の活用例を紹介し、地元企業の皆さまとともに、品質工学を用いて企業に内在する課題の解決を目指していきたいと思います。

(仙台商工会議所機関紙「飛翔」 平成19年5月号)

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「課題解決の切り札!『品質工学』:東北リコー(株) 白幡洋一

 「品質工学」は、「品質管理」と混同されることがありますが、似て非なるものです。「品質工学」が対象とするものは、「品物」すなわち「物」ですが、最近では、ソフトウェアや人間、さらには不動産などまで扱うようになるなど製造業の枠を超えて拡大しています。

 今後、本連載では品質工学でどのような事が可能になるのか,事例や成果を紹介していきます。ここでは、製造業の現場でどのようなメリットがあるのかを東北リコー褐レ問の白幡洋一さんにまとめていただきました。

@評価方法の獲得
 コストダウンのために設計変更したい。取引先を変えたいが、現製品と同等の耐久性が確保できるか不安がある。このような場合に合理的な「評価方法」が得られます。

A設計方法を変えてクレーム激減
 従来の設計方法の問題を一気に解決し、市場のニーズに応じた製品をタイムリーに提供。量産後の市場クレームも激減させる効果があります。

B工程管理の合理化
 良い製品を作るための工程管理や効率よく製品検査を行うための「コスト」と「品質」のバランスを考えた合理的な管理状態を実現するための解決方法を見つけることができます。

C不良品の流出撲滅
 出荷段階の検査を徹底したにもかかわらず、生じてしまう不良品問題を抜本的に解決。不良品の流出をなくし、市場クレームを限りなくゼロに近づけます。

(仙台商工会議所機関紙「飛翔」 平成19年7月号)

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「評価方法の獲得」:アルプス電気(株) 宇井友成

 製品のコストダウンは、製造業にとって常に取り組んでいかなければならない課題です。そのための設計変更や取引先変更などを行う際、必ずつきまとうのが「製品品質の確保」です。コストダウンのために変更したのに、量産後、あるいは市場投入後に品質問題を発生させたというのでは本末転倒です。

 解決策としては、量産に入る前に品質トラブルが発生する可能性を、短時間で評価してしまうことです。将来発生するかもしれないトラブルを早い段階で素早く予見できれば対応も簡単です。品質工学ではそのための合理的な評価方法を提供しています。

 この方法は、評価対象(製品など)の「機能」を特定し、その安定性を評価します。従来の方法は、仕様書に記述された寸法・電気的特性のようなスペックを評価して合否判断するため、膨大な時間と手間を必要としますが、評価の対象を製品の「機能」に絞ることで、短時間に評価することができる革新的な方法と言えます。

 もう一つの特徴はスペック評価ではなく量産実績、市場実績のあるものとの相対評価を行う点です。これにより、少ないサンプルで、手間と時間をかけずに妥当な評価をすることができます。この評価方法を品質工学では『取引における機能性評価』と呼んでおり、コストダウン品の評価に大きな成果を上げています。

(仙台商工会議所機関紙「飛翔」 平成19年9月号)

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「設計方法を変えて市場クレーム激減」:東北リコー(株)森富也

 弊社で設計している、非常に薄い紙をコロで挟んで搬送する装置は、紙に腰がないため、コロに巻き付きやすいという難易度の高い課題を抱えていました。課題解決にあたり、これまでは、設計後、実際に試作して、使用環境や使われ方を想定した搬送試験を実施してきましたが、不具合対策部品によるコストの上昇や、作業日程が読めないなどの問題が起こり、さらに、製品を市場投入後、お客様の千差万別な使い方によって、想定し得ないような不具合が発生し、根本的に設計方法を変える必要に迫られていました。

 こうした状況を打破するために、設計方法を再検討し、「市場の多様な要求に応える製品を作る」、「実験室での結果を市場で再現させる」、「評価に必要な大量のデータを取らずに済ます」といった課題を一挙に解決する方策として「パラメータ設計」を取り入れることにしました。

 多くの項目で評価する従来の設計方法に比べ、パラメータ設計ではただ一つの評価項目によって、少ない回数で効率良く評価でき、その効果が市場で再現するかどうか検証することができます。パラメータ設計の導入によって評価日数を大幅に短縮し、低コスト・短時間で設計を完了させるとともに、市場クレームを激減するという大きな成果を得られるようになりました。

(仙台商工会議所機関紙「飛翔」 平成19年11月号)

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「工程管理の合理化」:アルプス電気(株) 上杉一夫

 良い製品を出荷するために、企業内で行っている製造工程の管理や検査にはコストがかかります。企業は,コストをかけずに利益を出すことが求められているわけですが、これを実現するうまい方法などあるのでしょうか。

 品質工学の創始者、田口玄一先生は、品質の定義に経済性の概念を取り入れ、「品質とは品物が出荷後、社会に与える損失である」と定義しました。例えば、買ったばかりの冷蔵庫が故障したとき、電器店への連絡から新品交換までにかかる費用等を「損失」とします。これを「損失関数」という形にして表し、金額で表した損失とコストの合計を最小にするような製造工程を作り上げればよいとする「オンライン品質工学」という体系を作りました。「オンライン品質工学」は、合理的な管理条件として、製品の計測頻度や設備点検・保全周期の最適値を与えてくれると同時に、現状が「管理不足」か「管理過剰」かを判定して改善課題を明確にします。

 また、最近たびたび耳にする公園の遊具や遊園地のジェットコースターの事故ですが、「オンライン品質工学」では遊具設備の定期点検周期や、消耗品の定期交換周期を、計算により割り出すことも可能です。企業の経営者の皆さまには、オンライン品質工学を使った工程管理の合理化を強くお勧めします。

(仙台商工会議所機関紙「飛翔」 平成20年1月号)

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「おわりに」:宮城教育大学 小野元久

 これまで品質工学を積極的に活用している企業の実例をもって、品質工学の成果の紹介をしてきましたが、それらをまとめると次のようになります。

機能性評価:量産に入る前に品質トラブル発生の可能性を短時間で評価する機能性評価を獲得し、将来発生するかもしれないトラブルを素早く探し出せるようになり、コストダウン品の評価などに威力を発揮できるようになりました。

パラメータ設計:従来課題として、不具合対策による部品コスト上昇の防止、作業日程の不透明性の解消、お客様の多様な使い方による想定外の不具合発生への対策などがありました。パラメータ設計の適用により、評価日数の大幅な短縮と低コストでの設計を可能にするとともに、さらには、市場クレームの激減を実現しました。

オンライン品質工学:製造工程の管理コストや検査コストを抑えて利益を出すためには、製品の計測頻度および設備点検・保全周期のそれぞれを最適化するとともに、工程診断による改善課題の明確化などが必要となりますが、オンライン品質工学はこのような工程管理上の課題に回答を与えてくれました。 

このほかにも、ものづくりの現場で活用されている品質工学の手法は多数あり、また、その応用範囲も広範にわたっています。紹介しきれなかった内容については、東北品質工学研究会のホームページに掲載していますので、ぜひ一度ご覧ください。

(仙台商工会議所機関紙「飛翔」 平成20年3月号)

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「新検査システムの構築」:アルプス電気(株) 菊地富雄

 地球に人類が誕生して以来必要な新しい道具を作り、それが意図通りに出来たかを調べること(検査)を続けて来ました。現代においても検査は品質保証の重要な柱として位置付けられ脈脈と継続されていますが、製品機能の複雑化/高度化に伴い、検査する項目が増える一方で、経営的にみると品質面ばかりではなく、コスト面でも大きな課題になっております。

 MT(マハラノビス・タグチ)システムは、品質工学(タグチメソッド)で著名な田口玄一博士が考案されたパターンを認識する情報システムの技術です。多くの計測値を総合/圧縮して一つの尺度を作る汎用技術であり、「判別」「診断」「予測」に用いることができますが、検査を削減/効率化し、かつ問題検出力を従来の検査以上にできる可能性がある有用な方法論です。

 私が所属する事業部では、製品を組み立てる殆どの自動機にMTシステムを応用した装置を装着し、いつもと違う製品を検出/排除することにより、お客様の工程や市場で発生する品質問題(クレーム)の削減に有効であることが立証されております。

(1)「判別」
 音、傷、感触、味等の官能の世界は、人間による官能検査が行われていますが、個人差が出やすいことや持続性/再現性がない等の問題を抱えています。MTシステムを使用し、問題のない音や傷のない製品で基準を作ることによって、異常な音や傷のある製品を検出できます。

(2)「診断」
 MTシステムを用いると設備の異常や不良品の発生を検出できますが、設備の復旧や製品の改善のためには原因究明が必要です。どの計測値(項目)が影響しているのか、不良現象毎の特定なパターン(計測値間の組み合わせ)は無いか等を調べることができます。

(3)「予測」
 過去の前工程の検査結果(部品、半製品)と製品の検査結果(製品)との関係をMTシステムで解析することにより、現在の前工程の検査結果から完成品として組み込む前に製品の検査結果を予測することができます。

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「不良品の流出撲滅」:アルプス電気(株) 佐々木市郎

 私たちの身の回りにある多くの工業製品は益々高度化/高機能化し、生活を便利にしてくれています。しかし、高度化/高機能化ということは同時に複雑化という側面を持ちます。メーカーの立場でいえば、より多くの機能を従来と同じ箱(更に小さい箱の場合も多い)の中に押し込めなければならず、モノ作りとしては設計上も製造上も難易度が上がります。そして機能が増えるということは、検査工程も個々の機能が問題ないかをチェックする必要が出てきます。重装備にならざるを得ず、コストアップ要因となります。しかも市場で問題を起こすような不具合品の流出をなかなか撲滅できません。

 今までの検査は、取交し仕様いわゆるスペックに基づくものがほとんどでした。スペックとはとかく表面的であり、製品が持つ本質的な働きをあまり追求していない面があります。判定は絶対的な閾値によるので、変化点があっても合否ラインを満足していれば見逃される可能性があります。結果的に検査は通過しても、市場ですぐ壊れる、使えないという事態に至ります。

 そのような状況から、検査そのものに発想の転換を行ってみてはどうでしょうか。絶対評価に対する相対評価、市場で問題なく使われているいつもの量産・出荷品と同じレベルのものを作り続けている限りは、同様に問題は起きないはずだという考え方です。それを具現化してくれるのが、品質工学でも近年特に活発な分野といえるMT(マハラノビス・タグチ)システムです。考え方はこうです。問題のないいつもの正常なものを集めてきて、「単位空間」という集団を形成します。その製品が持つ本質的な働きは何かを吟味し、データの採取を行います。ここで計測技術のブレークスルーが必要になることもあります。MTシステムの適用条件の検討を経て,その「単位空間」の仲間なのか否かを、マハラノビスの距離(MD)という1つの指標で表すのです。従来は不良が発生すれば都度不良現象を調べていました。従って未知の不良は検出のしようがありませんでした。しかし、MTシステムは逆の発想であり、単位空間自体を研究して、それと似ていないものは取り敢えずはじきます。不具合症状の細かい調査は後で行えばよいので、スピードと精度が求められる今の状況の中では重宝する合理的且つ画期的な方法論といえます。

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「研究開発マネジメントの方法論」:株式会社リコー 細川哲夫

 これまでの日本における技術開発の主課題は、欧米で発明された基本概念・新技術を模倣改良し、 性能・コスト・品質の優位性を目指すことであり、キャッチアップが競争戦略の中心的位置づけという時代が長く続いてきました。しかし21世紀に入り、韓国を初めとするアジア諸国の技術レベルの飛躍的向上とともに従来からのキャッチアップ型横並び競争では生き残れない状況になってきています。独創的な新技術を先行開発し、短期間に十分な品質とコストを達成することで、タイミングよく新製品を市場に投入をしていくことが新たな経営課題となってきました。このような技術経営環境の質的な変革期を迎えて、新製品による新事業を成功させる戦略としてMOTに象徴されるように市場性の観点からの技術マネジメントが注目されるようになってきています。しかし、新技術を使った製品の事業化成功のためには市場性の観点だけでは不足であり、技術を作りこむR&Dプロセスの変革が技術経営の新たなマネジメント指針として必要になってきました。

 先が見えず、明確な目標と納期が設定できない新技術の開発段階で陥りやすい出口の見えない試行錯誤を排除し、基本機能による機能性評価とシステム選択を基軸に、新技術の開発の方向性を明確化し、技術者の創造性と開発の効率性を両立させる新しいR&Dマネジメンが品質工学により実現できます。

 某光学メーカーでは、業界のほとんどの専門家から実用化不可能と言われていた複雑な記録メカニズムを採用した光ディスク(オーバーライト型MOディスク)を世界で初めて製品化し、当時の光ディスクの大きな課題であった高速記録を実現しました。その成功要因は品質工学の考え方をベースとした技術マネジメントにより、最上流の研究段階で大量生産時の量産品質(歩留まり)と市場品質を確保する戦略にあります。

 品質工学は技術者が使う最適化のツールではなく、R&Dマネジメントの方法論として位置づけることでブレークスルーを加速する環境を構築することが可能となります。

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